「何者かになりたい」は多くの人が願っていることなのかもしれない。特に若者はそうかもしれない。でも私の半生を振り返ると、私は「何ものにもなりたくない」だけで生きてきたように思える。家族の中でも、学校でも、友達の中でも、役割を演じたくない、でも私に何らかの役割を求めてくる人がいれば、その人からは離れる。そんなことを繰り返してきた。 幸か不幸かその願い叶って、私は未だ何者にもなれていない。やりたいことを見つけたい。生まれてきてよかったと喜んでみたい。そうするには、何者かになるしかないのか？ どこか遠くに行きたい。もっともっと遠くに行きたい。たとえ孤独でも、自由がある方がよほど良い。誰にも見知られぬところで静かにこの命を終えたい。 何がしたいのか具体的にならない。遠くとはどこなのか。どっちに向かって歩き出せばいいのか分からなくて、今日も下を向いて見える道だけをただ歩いた。前を向いても何も見えない。こんなつまらない道をちまちま歩くだけならば、生まれてきたくなどなかった。