あまりにも贅沢な恐怖で、こんなことで泣く自分もどうしようもないのだけれど。
通帳の残高を久しぶりに見たら大幅に増えていた。残業代の分だ。
この、どんどん増えていく貯金が、私の孤独を責め立てているようで、恐ろしくて吐きそうになった。
おかしな話だとは分かっている。
子供の頃から決して裕福ではなかったし、大学生になってからは血の繋がらない父からのお金を受け取るのが申し訳なくて、断ってひたすらバイトしていた。
そのときは、残高が減るのが、怖くて仕方がなかった。
30歳過ぎて、同期は結婚して子供を生んで育てている人がほとんどだ。つまり、この通帳残高は、人を一人か二人、育てられる金額だ。
それだけの重みを、私は一人で持て余している。子供を欲しいとも、結婚したいとも思わない。ただ、この増え続ける数字に、死ぬまで続く孤独を感じて、恐ろしいのだ。
今になって、義理の父が、母と離婚してからも私にお金を渡したがった理由が、分かった気がした。
たった一人の人生には、重すぎるのだ。自分のためだけに使いきるには、その過程も、結果も、虚しすぎるのだ。
あの人は見返りが欲しかったわけじゃない。ただ孤独だったんだ、きっと。
受け取ればよかったな、と、もう連絡先も分からない父に申し訳なくなった。
今は分不相応にも人生に希望を見ているけれど、もしそれが断たれるような日が来たら、思いっきり寄付でもしよう。
そうしたら少しは泣く夜は減るだろうから。